鳩山由紀夫首相が愛好する政治理念。友愛はフランス語のフラタルニテ(博愛、兄弟相、同志愛とも訳される)に由来する。1871年に成立したフランス第三共和政が、1789年革命のスローガン「自由・平等」に追加したもので、フランスでは社会党、共産党もそれぞれの解釈に立ってこの言葉を受け入れた。鳩山の場合は、汎ヨーロッパ主義を提唱したカーデンホーフ・カレルギーが共産主義とファシズムに対抗する理念として掲げた「友愛」に祖父一郎が共感し、その祖父の理念を継承している。したがって共産主義はもちろん、社会民主主義とも距離をおいており、実際に同盟系の労働組合には、友愛の名をかかげるものもあった。鳩山自身はそれを「グローバル化する現代資本主義の行き過ぎを正し、伝統の中で培われてきた国民経済との調整を目指す理念」、あるいは「自立と共生の原理」と再定義している(「私の政治哲学」〈「Voice」2009年9月号〉)。自己責任と競争原理を強調する新自由主義的な「自立」と、社会民主主義的な「共生」を両立させようとするもので、現実に小沢一郎幹事長に代表される地域有力者の保守主義、旧社会党系の社会民主主義、さらには新自由主義に近い勢力などの寄り合い世帯の民主党内にあって、その内部の緊張と矛盾を包みこむ理念として働かせようとしているようである。鳩山の「政治とは愛です」という言葉とともに、いささか現実離れした理念として笑殺するむきもあるが、他方、あいまいな言葉でその場その場をしのいでいこうとする、したたかな戦略性の表れだとも見ることもできる。