アメリカの政治学者アンソニー・ダウンズが提唱した理論で、二大政党制のもと政権交代がほぼ定期的に起こったとしても、政策選択の幅はかえって小さくなるという説。2009年総選挙で民主党主導の政権が成立し、今後の日本は二大政党制に移るのではないかという予想が生まれた時期にあって、再検討に値する説である。19世紀末の欧米で(男子)普通選挙権が普及すると、階級間の貧富の差や都市と農村の格差にもとづいて、有権者の利益と意見は二極化し、多くの場合、その二極化はイデオロギーで補強されていた。これを図示するために、二極間の政策の分布を横軸に、有権者数を縦軸の上に分布すると、横軸の両端に二つの山ができる。二大政党制はこの二つの山に対応していた。しかし都市化が進み、産業構造が高度化すると、人口はいわゆる中流化し、格差やイデオロギーの対立は緩和されてくる。両端に二極化していた二つの山が、真ん中の一つの山に変わる。それでも一世紀前の二大政党制が残っているとすれば、二つの政党の政策は真ん中の有権者の票を求めて中央によってくる。このような状況では、政策をできるだけあいまいにしておくことが、政党にとって合理的な行動の仕方になるであろうと、ダウンズは予想している。政策を明確にすれば、一部の有権者の支持しか得られなくなるからである。選挙における政策論争は内容空虚なワイドショーになる。バラマキと財源隠しに対する批判が、その一例である。有権者の目から見れば、政党間の区別がつかなくなり、政治はプロの政治家が政治家であり続けるための営みにすぎない、と思えてくる。そして、いわゆる社会的弱者は、票にならないから政治から見捨てられることになるであろう。二大政党制に対する批判ないし警告として、説得力のある議論である。