2010年の統計で、日本は世界経済における第2位の規模という地位を中国に奪われた。1990年のバブルの崩壊以後の20年、いわゆる「失われた20年」に、日本は経済的にも政治的にも低迷を続けてきた。国力の推定には、労働力と市場の大きさを示す指標として人口が用いられるが、少子高齢化が進む日本はその点でも明るい未来を予想できない。他方で中国脅威論が唱えられるようになったが、その背景には日本はこのまま衰亡の一途をたどるのかという意識がある。アメリカは先進資本主義国の中でただ一つ、将来の人口増加が見込まれている国であるが、2001年の同時多発テロ事件以降のアメリカは、イラク戦争とアフガニスタン戦争で行き詰まっている。こうして、アメリカの覇権そのものが、中国にとって代わられるのではないかとさえ論じられるようになった。これまで中国はいかに大国であっても、基本的にアジアの地域的大国と考えられてきたが、中国とインドを主力にアジアの国内総生産(GDP)が、今日では世界GDPの半分を占めている。19世紀の半ば、産業革命がイギリスで実現された時とほぼ同じ比率である。中国は今ではアジアだけでなく世界の大国であり、インドがそれに続くであろう。トウ小平の中国はいわゆる改革開放体制に転換した時、「韜光養晦」、つまりは低姿勢で世界に臨む方針であったが、いまや全世界と貿易するようになった中国は、海軍を含め軍事力を大幅に強化し、高姿勢に転じている。アメリカのブッシュ大統領は、インドが核拡散禁止条約に調印していないにもかかわらず核技術の提供を認め、日本の安倍晋三首相は日印関係を「アジアの自由と繁栄の弧」と呼んだが、いずれも中国に対する牽制(けんせい)の動きであった。安全保障はアメリカに、経済は中国に頼るという日本の姿勢を保つことは、次第に難しくなるであろう。