2009年8月末の総選挙で、民主党はおおよそ二つの論点で自民・公明連立の麻生政権と対決した。一つには、自民党の伝統的な官僚主導に対して政治主導を唱えた。自民党では、議員は党よりもどの党内派閥に属しているかを強く意識しており、閣僚の地位は議員の当選回数に基づき、派閥間の力関係で配分されていた。政策形成はもっぱら官僚にまかされ、大臣は議会に対して責任を取るよりもむしろ各省の代弁者として行動してきた。また自民党は財界や各地方の利益団体と連携して選挙基盤を築いた。それに対して民主党は、閣僚は党の政策体系を各省で実現するよう官僚制度を運営し、国民の信任を得ようとする。他方で政策においては、自民党的な政財官の利益連合体を破って、「国民生活が第一」を唱えた。社会福祉政策の蓄積のあるヨーロッパ諸国では社会民主主義的と呼ばれる政策である。特に先の小泉自民党政権が党内の抵抗勢力に抗して、「自民党をぶっこわしても」郵政改革を実現すると唱えて、新自由主義路線を打ち出したために(実際には郵政だけにとどまり、それも不徹底な結果に終わっているが)、民主党の社会民主主義的路線との対立軸が形成されたかのように見えた。
しかし、自民党全体が新自由主義に明確に踏み切っている訳でもなく、また民主党が社会民主主義で団結している訳でもない。民主党はもともと、保守的な勢力と連合に代表される社会民主主義など雑多な勢力を自民党に反対するという軸で結集しているだけで、安定した対立軸の形成には及ばなかった。鳩山政権は温暖化対策、生活保護の母子加算の復活、事業仕分けで新鮮味を見せたが、米軍普天間飛行場の名護市辺野古沖への新基地建設案を否定し、準備のないまま「最低でも県外、できれば国外移設」を主張して挫折した。続く菅政権は、これまた党内の十分な討議を経ないままに消費税増額を唱えて、参議院選挙で手痛い敗北を喫した。さらに野田政権は、小沢一郎元代表の消費税増額反対という党内からの抵抗にあって、13年の会期満了を控えて「政局化」現象を見せている。