わが国の選挙運動では、知人などに投票依頼する個々面接や、電話による投票依頼は自由であるが、「選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって」戸別訪問することは禁止されている(公職選挙法第138条)。この禁止規定は1925年(大正14)の衆議院議員選挙法(普通選挙法)によって初めて設けられたが、その後50年の公職選挙法が「候補者が、親族、平素親交の間柄にある知己その他密接な間柄にある者を訪問すること」を認めたのを唯一の例外(52年の公職選挙法改正によって候補者による戸別訪問も全面禁止された)として、引き続き維持されて今日に至っている。これに対して、現行の公職選挙法の戸別訪問禁止規定は、憲法第21条(表現の自由)に違反するといった角度からの問題提起が再三にわたってなされてきたが、最高裁判所は現在まで、一貫してこの禁止規定を国会が裁量の範囲内で決定した立法政策の問題であり、したがって合憲であるとする判断を示してきた。