鳩山連立政権の発足で、総理大臣らの国会答弁資料の作り方が問題化した。旧政権下では、一般に、国会が開かれると、国会対策関係に当たる府省の職員が「質問取り」と呼ばれる想定質問づくりを行い、整理した質問を主管の局課へ送り、各課で答弁資料案を作成していた。局総務課(庶務課)法令係長、総括補佐、総務課長、審議官、局長、官房総務課長、官房長と閲覧決裁され、答弁資料として確定し、これを清書してつづり合わせ、官房長から大臣・副大臣・政務官へ別々にレクチャーし、大臣は官僚作成の国会答弁で読み上げていた。
民主党は、野党の時には、官僚による答弁資料作成や答弁資料に基づいた答弁を、「官僚任せ」だと批判していた。鳩山連立政権が発足し、臨時国会召集前の2009年10月22日、内閣官房内閣総務官室は、各府省に対し、内閣総理大臣、内閣官房長官または内閣官房副長官に対する質問に関する国会答弁資料の様式、提出方法等に係る文書を配布した。その中で「官僚支配からの脱却」を訴えていた民主党の答弁用の原稿を作るように指示し、その際の留意事項として、「一文は2行半まで」、「総理答弁等にふさわしい格調高い表現を」などとしていた。また、内閣総理大臣らに対する質問が見込まれる国会審議の前日には、慣例として、内閣総務官室から各府省の国会連絡室に対して、国会待機を解除する旨の連絡を行うまでは、必要な職員を待機させる体制をとるよう要請がなされていた。新政権下での国会開会に当たっても、従来どおりの注意事項を事務的に配布したため、内閣総理大臣らが事務方の作成した答弁資料をそのまま読むのではないか、という誤解を国民に生じさせかねないことから、代表質問前日の10月27日に、平野内閣官房長官からこの文書を廃棄するよう各省庁に求め、従来の慣例に従って文書を配布した内閣総務官に注意が行われた。ただし、その後、各省庁に改めて「簡略化した答弁資料」を作成するよう指示がなされた。首相らの応答要領は、各省庁が新たな指示で作った「簡略化した答弁資料」を基に首相秘書官らが執筆、首相自らが加筆・修正して「政治主導」を演出するという形となった。09年10月28日および29日の衆議院本会議では、内閣総理大臣および各閣僚は、答弁する際に参考となるよう必要な情報を関係する部局から提出させた上で、それらを含む種々の情報を基にして、自らの考えで答弁を行ったとされている。官僚からの情報提供抜きでの国会答弁は困難であるが、だれが情報を出し原案を書くのかに意思決定力の源泉がある以上、大臣らが官僚に頼らない独自の情報・政策源も持ちうるかどうかが課題になる。