2015年1月から2月にかけて、湯川遙菜氏とジャーナリストの後藤健二氏が過激派組織「イスラム国」(IS)に殺害された事件。同組織による人質殺害の被害者で邦人としては初めてのケースである。
日本政府は、湯川氏については前年8月中旬、後藤氏は11月初旬にそれぞれシリアで行方不明となったことを把握した。外務省や警察庁など関係省庁が情報収集に努めたものの両者の行方をつかむことはできず、12月初旬以降、犯行グループからの後藤夫人への接触でようやく同氏が何者かに拘束されたことが判明した。犯行主体が「イスラム国」であり、湯川氏も同組織に拘束されていると政府が最終的に確認できたのは1月20日、犯行グループがインターネット上で両氏とみられる人物の映像を公開し、72時間以内に身代金2億円を支払うよう要求したことによってであった。同日、安倍首相は訪問先のイスラエルで、犯行を非難し人質の即時解放を求めるとともに、テロには屈しないとの姿勢を明らかにした。他方、政府はヨルダンのアンマンの現地対策本部に中山泰秀外務副大臣を派遣し、ヨルダン政府をはじめ関係各国と連携して対応に当たった。
しかし1月24日深夜、湯川氏が殺害されたとみられる写真をもつ後藤氏とみられる人物の映像とメッセージがインターネット上で配信された。27日にはヨルダン人パイロットの写真が印刷された紙を手にした後藤氏とみられる人物の画像と音声メッセージが、29日にも後藤氏とみられる人物の音声メッセージが流れた後、2月1日早朝、後藤氏とみられる人物が殺害される映像がインターネット上で配信された。
事件後、マスコミや国会では、政府の情報収集体制や動画公開以降の初動体制、全般的な対応のあり方が問われた。官邸が設置した有識者による「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会」が5月にまとめた報告は、政府による判断や措置に人質の救出を損ねるような誤りがあったとは言えないとの全般的評価を示しつつ、情報収集・分析体制の改善・強化が必要であると提言している。