歴史認識をめぐる日韓対立のなかで1990年代以降、もっとも大きな争点となってきた従軍慰安婦問題の解決に関する日韓両政府の合意。両政府の担当者間協議を経て2015年12月28日、日韓外相会談で両国のとるべき措置が確認され、記者会見で発表された。
その要点は、(1)日本政府は、従軍慰安婦問題が「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」であるとして「責任を痛感」し、安倍首相は元慰安婦の女性に対して「心からおわびと反省の気持ち」を表明する。(2)韓国政府が元慰安婦の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括して拠出するという形で、日韓両政府が協力してすべての元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこと。(3)以上の措置を着実に実施するとの前提で、この合意によって従軍慰安婦問題が「完全かつ不可逆的に解決される」ことを確認する。また日韓両政府は、今後は国際社会において本問題について互いに非難・批判することを控えること。(4)韓国政府は、 在韓国日本大使館前の少女像について、可能な対応について関連団体との協議を行うなどを通じて、適切に解決されるよう努力すること、であった。この合意に基づいて、16年7月末に「和解・癒やし財団」が設立され、日本政府は8月末に同財団に対して10億円を支出した。
しかし、韓国国内では、この15年日韓合意が日本政府の法的責任を認定していないとみられ反発は強かった。日本大使館前の少女像の撤去に向けた取り組みは進まず、16年12月末には市民団体によって釜山(プサン)の日本総領事館に面する歩道にも少女像が設置された。さらに朴槿恵(パク・クネ)大統領が17年3月に政治スキャンダルで失職し、直後の5月に行われた大統領選挙で当選した文在寅(ムン・ジェイン)は公約に本問題に関する日本政府との再交渉を掲げていたことから、合意の維持はますます難しくなった。17年12月、文在寅政権は合意に至る過程の検証報告書を公表し、大統領声明において15年の日韓合意には重大な欠陥があり、この合意によっては慰安婦問題は解決されないとの立場を明らかにした。一方で文政権は、日本との外交関係に配慮し、15年合意は日韓両政府間の公式の合意であるから再交渉を求める意思はないとしている。ただ、「完全な解決」のために日本政府に被害者への「心を尽くした謝罪」を要求するという方針をとっている。(2018年1月現在)