歴史認識問題は、「同盟」関係の深化と拡大が強調される日米関係においても存在する。もっとも大きな問題は、1941年12月8日(日本時間)の日本軍による真珠湾攻撃と45年8月、アメリカの広島・長崎への原爆投下をめぐって、両国国民の認識に深い断絶が存在することであろう。2016年は、そうした認識の差異を超えて両国政府が「歴史和解」を演出する年となった。
まず5月27日、バラク・オバマ大統領が広島を訪問した。現職のアメリカ大統領としては初となる訪問で、およそ50分の滞在中に平和記念資料館の視察、平和記念公園での献花及び演説、被爆者とのふれあい、原爆ドームの見学(遠望)をこなした。原爆投下はアジア太平洋戦争を早期に終結させ、さらなる人命の犠牲を抑えるために導入された正当な手段であったという見解がアメリカ政府のとる公式の立場である。日本国民に対する「謝罪」に受け止められかねない現職大統領の被爆地の訪問は、アメリカの国内政治上極めて困難であった。それが実現したのは、核兵器なき平和を掲げたオバマ大統領が核時代の幕開けを象徴する広島の訪問を希望し、方途を探ってきたことに加えて、16年が同大統領の任期2期8年の最後の年であったというタイミングが作用したとみられる。平和記念公園での演説は、原爆投下の責任に触れることなく、核兵器なき世界の実現という理想に向けてより高い道徳心と思考枠組みの転換の必要を呼びかけることに重心が置かれた。
一方、安倍首相は16年12月末に2日間にわたってハワイを訪問した。首脳会談や国立太平洋記念墓地の訪問、日系人との夕食会など一連の日程の最後に組み込まれたのがアリゾナ記念館の慰霊訪問であった。こちらも現職の内閣総理大臣としては初の訪問である。多くのアメリカ人にとって真珠湾攻撃とは、日本の卑怯なだまし討ちによって多数の同胞が犠牲になった許しがたい行為である。原爆投下で謝罪を求めるのであれば、真珠湾攻撃について謝罪せよ(原爆投下は日本の奇襲攻撃が招いた結果であり、責任は日本にある)という感覚は、日本人にとっては理解しがたいが、アメリカでは受け入れられやすい。安倍首相の演説にもまた明確な謝罪はなかった。ただ、今なお乗組員とともに海底に沈む戦艦アリゾナを前に日本の首相が犠牲者を慰霊することは、アメリカに敬意を払い、アメリカの経験と受けた傷に向き合う真摯な行動として評価される。
安倍首相の演説は、真珠湾攻撃の、さらにすべてのアジア・太平洋戦争の犠牲者に哀悼の意を捧げつつ、日米の強固な同盟関係が、寛容の心がもたらした「和解の力」によって結びつけられた「希望の同盟」であると謳い上げるものとなった。広島と真珠湾への首脳の相互訪問は、日米同盟の絆を確認する機会となったのである。