2000年代半ばごろから、外務省は海外への情報発信と文化外交の目的を「自国の対外的な利益と目的の達成に資するべく、自国のプレゼンスを高め、イメージを向上させ、自国についての理解を深めるよう、海外の個人及び組織と関係を構築し、対話を持ち、情報を発信し、交流するなどの形で関わる活動」と定義している(『2004年度外交青書』)。アメリカの同時多発テロ(01年9月)とその後の対テロ戦争、自衛隊のイラク派遣開始(03年12月)を背景に、文化や価値の魅力、政策課題を設定する力などを通じて他者の選好を形成する能力と定義される「ソフト・パワー」の概念が、日本外交においても注目されるようになった。グローバリゼーションの進展とともにさまざまな非政府組織や市民が外交活動に関与する機会が増大したことも、対象国の政府機関のみならず国民や世論に直接働きかける必要性を日本政府に認識させるようになったと考えられる。
従来、文化外交の主力は伝統文化の紹介を中心とする文化事業や知的交流、日本語教育、人物交流などであった。2000年代以降はこれらに加えて、「クール・ジャパン」として注目を集める日本発のポップカルチャーや和食、ファッションなどが各種文化事業に取り入れられるようになった。多様なモノやサービスの大量消費に直結する「クール・ジャパン」は、経済成長戦略における期待度も高い。また、「日韓友情年」(05)や「日中文化・スポーツ交流年」(07)のように、各国との間で節目となる年に周年事業として大規模かつ総合的な文化交流事業を展開するようになるのもこのころからである。
戦後70年を迎えた15年ごろから顕著になるのが、日本の「正しい姿」を発信するという方針と、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった基本的価値への信奉、アジア太平洋地域や国際社会の平和と発展に貢献する意思を強調する傾向である。歴史認識問題や領土問題で日本政府の主張の正当性を明らかにするとともに、日本にとって望ましい国際環境を創出するために、日本の「平和国家」としての歩み、普遍的な価値観や理念を追求する姿勢をアピールすることが対外発信の重要な要素となっている。