個人が生まれながらに有するとされる各種の自然的権利の総称。欧米では単に「基本権」「人権」といわれるが、日本では1945年7月のポツダム宣言(10項)の訳語として「基本的人権」が登場し、憲法でも用いられている(11条・97条)。自然的権利という思想は、もともと社会契約説を背景としており、国家に先立つ権利(前国家的権利)ともいわれるが、個人が人間としてそうした自然権をもちうるかは厳密には論証不可能で、現代憲法による権利保障にとってはむしろ「公理」とみるべきものであろう。1789年のフランス人権宣言は、自由・所有・安全・圧政への抵抗を自然権とした(2条)。今日では、これらの自由権だけでなく、政治権力を前提として成り立ちうる平等原則、国の作為を求める国務請求権(裁判を受ける権利など)や国の統治に参加する参政権(選挙権など)も、基本的人権に属すると考えられている。日本国憲法もこれらの権利を保障するが(3章)、自然権思想に基づくからといって絶対無制約の権利を保障するわけではない。その行使は、「公共の福祉」に反しない限度で認められる(12条・13条)という意味で人権には内在的制約があり、経済活動の自由にはより強い制約もありうる(22条・29条)。もっとも、その場合でも「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(13条)ことが要求されている。