憲法76条により裁判所に与えられた権能で、裁判所法3条は「法律上の争訟を裁判」する作用と定めている。裁判は、(1)証拠に基づく事実の認定、(2)認定事実に対する法令の適用という二段階で行われるが、司法権の本来の働きは(2)法令の適用にある。国民は、こうした「裁判所において裁判を受ける権利」(憲法32条)を保障される。民事・行政・刑事のいずれの事件であるかにかかわりなく、「一切の法律上の争訟」が裁判所の審判の対象となるが、裁判所も多くの原理で構成される民主的憲法における一つの機関であるから、例外的に特定の事項について法的判断を控えることもある。例えば、(1)他の憲法的機関に組織・運営上の自律権が認められる場合(1962年3月7日大法廷判決)、(2)きわめて高度の政治性をもつ統治行為(59年12月16日大法廷判決、砂川事件)などがそれに当たる。後者のように、司法権が国会・内閣などの政治部門の判断の前に法的判断を控える考え方は「政治問題」の法理とも呼ばれる。一切の争訟を裁判するといっても、争い自体は必ず法律上の争訟、つまり法令を適用することによって終局的に解決しうる争訟でなくてはならない。したがって、国家試験のやり方の適否に関する争い、宗教上の地位や宗教的な価値・教義又は信仰の内容に関する争いなどは、法律上の争訟といえず、訴えは不適法として却下される(最高裁66年2月8日判決、81年4月7日判決など)。