訴訟に対する裁判権が司法裁判所に一元化されている司法審査制の下では、憲法判断それ自体を目的とし、独立した組織(憲法裁判所)をもつ憲法裁判という固有の手続・制度は、成立しない。そこでは、民事・刑事・行政事件の具体的な裁判に際して憲法判断が行われ、法令の合憲性の問題や憲法上の争点に関する判断を含む具体的な争訟事件があるにすぎない。このような争訟制度を、「憲法裁判制度」と区別する意味で、「憲法訴訟」と呼ぶ。憲法訴訟は独立した訴訟形態を指すものではないから、訴えの提起、審理の方法や判決の形式などについては、民事・刑事・行政事件といった具体的な争訟を規律する各種の訴訟手続法の定めたところによる。ただ、司法審査制に由来する固有の準則があることに注意する必要がある。まず、(1)具体的な法律上の争訟と無関係にある法令の違憲性が主張されても、裁判所は判断しない。また、(2)具体的な事件の解決に必要不可欠な場合にのみ憲法判断を行うべきであり(必要性の原則)、法律の解釈やその他の理由によって具体的事件の解決が十分可能なときは、ことさら法令それ自体に対する憲法判断を行うべきでない(憲法判断回避の原則)。さらに、(3)法律の文言の解釈については憲法に適合する意味のものを選択したりそれに限定したりすること(合憲解釈の原則)により、可能な限り違憲判断を避けるべきである(違憲判断回避の準則)。なお、最高裁判所が法令を違憲とする判決をするには、大法廷で、かつ8人以上の裁判官の一致を必要とする(裁判所法10条、最高裁判所裁判事務処理規則12条)。