民主的政治体制が実現した国において、その前の時代に行われた虐殺、拷問、略奪、強姦などの重大かつ大規模な組織的人権侵害行為の責任者を逮捕して処罰し、被害者に対して救済の手をさしのべること。民主的政治体制が実現した国とは、戦争、内乱、軍事独裁政治、植民地支配、人種隔離政策などの、政治的混乱や抑圧、戦乱などを克服した国をいう。深刻な人権侵害の加害者を放置することなく、確実に処罰することにより同様の人権侵害の再発を防止するとともに、被害者に対して適切な精神的・物質的救済措置を講じようとする「不処罰(impunity)の禁止」原則および国際連合(国連 UN)が世界に広めようとしている「法の支配」原則を政策として具体化したものである。1990年代に人種隔離政策(アパルトヘイト)を放棄して民主的政権を確立した南アフリカで、ネルソン・マンデラ大統領(当時)が提唱した「真実と和解のプロセス」が移行期正義の一つの実現方式として注目された。その後、シエラレオネ、カンボジア、旧ユーゴ、東ティモール、ルワンダなどにおいても、国際的刑事裁判や真実和解委員会(TRC ; Truth and Reconciliation Commission)などを通して、移行期正義の実現を図る試みが行われている。