2015年10月12日、韓国政府が現行の検定制度に基づくちゅうこう中学高校の歴史教科書を、17年度から国定教科書にすると発表したことにより、この是非をめぐって韓国国内で展開された政治的対立を指す。韓国朴槿恵(パク・クネ)政権は、近年の歴史教科書の執筆が、左派系の研究者によって独占されており、歴史教育自体も左派の全教組(全国教職員労働組合)によって影響を受けていると認識している。それを是正し、韓国の「正統な歴史観」に基づいた歴史教育を行うためには、現行の検定制度では不十分であり、国定教科書を作成する必要があると主張した。特に問題視したのは、朝鮮戦争や南北関係に関して韓国の公式的かつ正統な解釈とは違う解釈を提示し、北朝鮮に宥和的な記述が目立っていることである。しかし、野党や進歩的市民運動の側からは、過去の独裁体制下の教育制度への逆戻りという点で民主化とは相反するものであり、結局、保守政権は、日本の植民地時代やその後の独裁体制の時代における、自らに都合の悪い歴史的事実やそれに基づく歴史解釈を封じ込めようとしているのではないかという反対論が提起される。国定教科書執筆は国史編纂委員会を中心に進められるが、執筆者の選定などに際し、慎重論、反対論などをどのように説得することができるのか、困難な課題が横たわる。朴槿恵政権としては、こうした問題を政治的争点にすることで16年4月の総選挙に有利に働きかけ、残り任期2年を迎える政権のレームダック化を抑える効果をねらっている。