北朝鮮の指導者であった故・金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の長男で、現指導者の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の異母兄にあたる金正男(キム・ジョンナム)が、2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、ベトナム人とインドネシア人の女性2人によって、猛毒のVXガスで殺害された。北朝鮮政府の関与は周知の事実であるが、直接的な事件関係者は既に出国しており、事件の背景は藪の中である。金正男は01年5月、家族と共に東京ディズニーランド観光を目的とした偽造旅券での日本入国を拒否され送還されたことがある。金正男は金正日体制時にはマカオを拠点として北朝鮮との間を比較的自由に往来していたが、金正恩体制の成立以後は北朝鮮には帰らなかった。事件後、北朝鮮とマレーシアとの協議で金正男の遺体は北朝鮮に引き渡された。事件は、中国などが金正男を利用した亡命政権樹立を画策する可能性を北朝鮮が察知し、それを未然に防ぐためであったと推測される。北朝鮮はマレーシアとの国交断絶には至らなかったものの、平壌(ピョンヤン)駐在のマレーシア大使館が閉鎖されるなど、両国の友好関係が大きく損なわれた。