台湾の政権(2008~16年)。2008年3月の総統選挙で圧勝した国民党の馬英九が5月に就任し、発足した。選挙中は、対中政策に関しては「3つのノー」(統一せず、独立せず、武力を用いず)政策を進めることを掲げ、かつ中華民国は主権独立の国家であると主張し、中華人民共和国との距離を強調した。しかし就任後は、民進党の「1つの中国、1つの台湾」論を放棄し、「1つの中国、各自が表現」という1992年コンセンサスに戻り、対中関係改善に大きく踏み出した(→「中台関係」)。ただし一方的な対中接近には警戒的で、アメリカ、日本との関係の強化も目指している。特にアメリカからの大規模な新型兵器購入決定(現状では延期)、総統府主導による2009年の「台日特別友好関係促進年」決定などに、そうした意向がうかがわれる。馬政権のもう1つの大きな課題は、低迷する台湾経済の立て直しである。交通網整備、都市・工業区再開発などを盛り込んだ大幅な公共投資を軸とした「愛台湾12建設」という基本目標、また「経済建設633目標」(経済成長GDP6%維持、1人当たりGDP3万ドル、失業率3%以下を実現)を設定した。これらの政策に大きな期待を寄せた住民は馬政権を強く支持したが、政権発足直後からガソリン価格をはじめとした物価高騰にも対策がなく、失業率も就任時よりも悪化し、09年6月の南部での大水害では現場にも行かないなど無策ぶりが続き、そのうえ中国人の台湾観光解禁の経済効果も見えてこない。こうした中で、08年8月の「聯合報」の世論調査では支持率が47%と大きく低迷しはじめ(就任時66%)、さらに09年の水害への対処の失敗、10年1月立法委員(国会議員)補欠選挙で、与党・国民党は3議席すべてを失い、基盤が揺らぎ始めたに見えたが、10年12月の5大都市市長選挙では国民党系が3つのポストを確保し、勢いを挽回した。10年の中国との間に結んだECFA(中台経済協力枠組み協定)効果による台湾経済の成長加速も加わってか、12年1月の総統選挙、立法院選挙では、苦戦が予想されていたにもかかわらず、馬英九の総統再選、国民党の過半数確保が実現し、比較的安定した政権維持の枠組みができた。