近年のタイの政治的混乱の“影の主役”とされるタクシン元首相を支持する陣営。タクシン・シナワットは、通信事業で財をなしたのちタイ愛国党を結成、2001年の総選挙における同党の圧勝で首相に就任した。1997年のアジア通貨危機後の経済再建に大きな成果をあげるとともに、歴代政権が軽視してきた農村などの貧困問題に本格的に取り組み、農民や都市下層民から強い支持を得た。しかし、独断専行的な姿勢やメディアへの介入にくわえ、首相一族の株売却疑惑が明るみになったことで、政権2期目の2006年から「民主市民連合」(PAD)を中心に首相退陣を要求する市民集会が首都バンコクで相次いだ。同年9月、国軍のクーデターにより外遊中のタクシンは政権の座を追われた。しかし、07年12月の民政移管後も総選挙でタクシン派政党が勝利を収めたため、PADは空港占拠などの過激な反政府活動を繰り返し、ついに08年12月に反タクシン派のアピシット政権を誕生させた。反撃に転じたタクシン支持派組織「反独裁民主戦線」(UDD)は、09年4月に東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の開催予定会場に乱入。さらに10年には3月から2カ月にわたりバンコクでアピシット政権打倒の大規模行動を繰り広げたが、政府の弾圧で多数の死傷者を出した(→「バンコク騒乱」)。タクシン派は、タクシンに代表される新興ビジネスエリートや農民と都市の貧困層を基盤としているのに対して、反タクシン派は、彼らに既得権益を脅かされると警戒する王族、国軍などの旧権力層、タクシン派と利権対立するビジネスエリート、都市中間層とされる。