インドの宗教といえばヒンドゥー教を思い浮かべるが、イスラム教徒人口がインドネシア、パキスタンに次いで世界で3番目に多い国はインドである。総人口約11億人の13.4%、1億4000万人がイスラム教徒である。しかし、1947年のイギリス植民地インドの独立にあたって、宗派対立を背景にインドとパキスタンという二つの国家が誕生したことで、少数派となったインドのイスラム教徒、パキスタンとバングラデシュ(71年にパキスタンから分離独立)のヒンドゥー教徒は、それぞれの国内で不利な立場に置かれてきた。インドの高等教育や公共部門の雇用におけるイスラム教徒の比率は、全体の約3~4%にすぎない。また、インド政治に強い影響力を持つ、ヒンドゥー至上主義団体やその傘下の政党、青年組織などは、あからさまにイスラム教徒を迫害する傾向にある(→「インド人民党」)。92年12月のアヨーディヤーのモスク破壊事件、2002年2月から3月にかけてのグジャラート州における反イスラム教徒暴動は、いまなおイスラム教徒社会に深い傷を残している。インドのイスラム教徒のあいだにはイスラム復興運動の長い伝統があり、それは時として青年層の一部をテロリズムなどイスラム過激派の活動に走らせることはあるが、インド最大のイスラム神学者組織であるインド・ウラマー(神学者)協会などは、反テロリズムの立場を明確に打ち出している。イスラム教徒の迫害や教育、雇用におけるかれらの窮状を打開するには、印パ両国の和解をめざし、インド政治におけるヒンドゥーとイスラム双方の過激派の影響力を排除する以外に選択肢はない。