2009年の第15次連邦下院選挙で成立した第二次統一進歩連合(UPA)政権は、10年秋以降、次々と明るみにでた汚職疑惑に動揺している。下級公務員による少額の賄賂から、兵器購入にかかわる贈収賄(ラジブ・ガンディー政権期のボフォース社事件)のような国レベルの事件まで、汚職自体は新しい問題ではない。今回の一連の汚職では、経済自由化政策を背景に、携帯電話、都市の不動産など、インド経済の活況が生み出す新たな機会をめぐって、企業と政治家が癒着している姿が浮き彫りになった。10年秋以降明るみに出た汚職疑惑では、第二世代(2G)携帯電話周波数の割り当て、デリーのイギリス連邦競技大会での担当省と建設業者らとの癒着、ムンバイの軍戦死者家族用マンションの非対象者への横流しなど、主に与党UPAの政治家の関与が注目されたが、野党のインド人民党も与党であるカルナータカ州で、土地の不正取引、鉄鉱山の不法採掘の疑いがかけられている。とくに「2Gスキャンダル」と呼ばれる携帯電話周波数の不正割り当ては、国庫に莫大な損失を与えただけでなく、担当閣僚が連立政権の一角をになうタミル・ナードゥ州のドラヴィダ進歩同盟の政治家であり、シン首相が連立政権の存続を優先して不正な手続きを黙認したと疑われ、連立政治の暗部をさらけ出した形である(→「インドの地域政党」)。政治腐敗に汚染した諸政党への国民の不満を背景に、11年に入ると、ガンディー主義活動家のアンナー・ハザレーが、広範な権限を持つオンブズマン(ロークパール[民衆の統治者])制度の立法化を要求して、4月と8月の2度にわたり首都で断食闘争を展開した。この断食は全国的な反響を呼び、インド連邦議会はハザレーの提案も含めた効果的な腐敗防止制度の検討を続けている。12年11月にはハザレーから離れたA.ケジュリワルらの活動家が、反汚職を掲げる新党、庶民党(AAP)を結成した。