パキスタンのムシャラフ政権時に解任され、2009年3月に最高裁判所長官に復職したイフティカル・ムハムマド・チョウドリー長官のもとで、最高裁は同年12月、ムシャラフ前大統領がベナジル・ブットの夫ザルダリ(現大統領)を含む汚職疑惑者約8000人に対してとった免訴措置である「国民和解令」を違憲とした(→「最高裁長官罷免問題」)。同時に、ベナジル・ブットおよびザルダリ夫妻がスイスの銀行口座に不正蓄財したとされる資産の返還請求訴訟の再開を命じた。しかし、ザルダリ政権が、就任以来最高裁の指示を無視し続けたために、最高裁は12年1月16日、ギラニ首相を召喚して法廷侮辱罪の審理を開始した。最高裁は4月26日に首相に対して有罪判決を下し、6月19日にはその辞職を命じた。ザルダリ政権は後任首相人事につまずいたが、ようやく6月22日、R.ペルベズ・アシュラフが新首相に就任した。アシュラフ首相も当初は訴訟手続きの再開を渋ったが、11月9日付でスイス政府あて書簡を発出した。ただしスイス法務当局が訴訟を再開する可能性は低いとみられている。そのなかで皮肉にも、12年6月には、チョウドリー最高裁長官の子息に対する不動産業者からの贈賄疑惑が表面化し、最高裁は元情報局長官S.サダルによる調査委員会を任命した。