中国では伝統的に陸軍が主体だった人民解放軍が、1980年代になると強力な海軍拡大を主張し、近代化を進めると同時に南太平洋への進出を開始した。同国の国防費は89年度から毎年ほぼ一貫して2桁の伸び率で、名目上の規模は88年度から28年間で約44倍、2006年度から10年間で約3.4倍となっている。南シナ海を含む第一列島線の内側を安全地帯とすることを目指しつつ、遠方の海や空での作戦遂行能力も高めている。12年に沿岸防衛からの脱却のシンボルとなる中国初の空母「遼寧」が就役し、16年末には初めて第一列島線を突破した。こうした中で、中国にとって南太平洋はアメリカへの牽制をにらんだ安全保障上の核心的利益へと変質している。また太平洋進出は軍事にとどまらず、中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」は太平洋も含む。17年5月の「一帯一路」国際会議には、島しょ国のリーダー的存在のフィジーが出席して話題を呼んだ。南シナ海の領有権問題ではバヌアツが「中国の立場を支持する」と表明し、オーストラリアが注意を向けている。海洋進出の一環として、中国が太平洋島しょ国への援助を拡大しているからである。島しょ国の港湾・道路網整備などのインフラ開発に力を入れるだけでなく、オーストラリア北部ダーウィンの港湾施設の一部を入手したり、鉱山、農場、牧場を取得したりする動きを強め、オーストラリア経済への影響力も拡大している。そのため、ターンブル政権は17年末に中国企業による政治献金を制限し、大陸進出を抑制する政策を導入するなど、中国との関係を悪化させている。さらに日本、アメリカそして中国の海洋進出を気にしているインドとともに、対応を協議することに積極的な姿勢を示している。