アメリカでは妊娠中絶に反対する生命重視(プロ・ライフ pro-life)派と、妊娠中絶は女性が選択する権利と主張する選択支持(プロ・チョイス pro-choice)派が対立している。連邦最高裁判所は1973年1月、妊娠3カ月以内の中絶を禁止したテキサス州法を違憲とする判断(ロー対ウェード事件判決)を示し、妊娠3カ月以内の中絶を合法化して以来、一貫して違憲判断を維持しているが、07年4月、部分的出産中絶禁止法(PBAB ; The Partial-Birth Abortion Ban Act)について合憲との判断を下した。中絶の権利が一部にせよ連邦最高裁で認められたのは初めて(→「連邦最高裁判所」)。中絶論争の激化に伴い、暴力事件が続発、1982年にはイリノイ州で中絶クリニック爆破、93年にはフロリダ州で中絶医を狙った初の殺人事件が発生、2009年5月にはカンザス州ウィチタで中絶医が射殺され、中絶医を標的にした殺人事件は8件となった。中絶件数は年間約120万件にのぼる。世論調査では、中絶反対派と容認派が拮抗している。