黒人初の大統領として2009年1月に就任したバラク・オバマ大統領は、同年12月「核のない世界」の実現を訴えノーベル平和賞を受賞したが、17年まで2期8年間の在任中、内政、外交とも理想と現実のはざまで揺れ続けた。就任当時、4カ月前に発生したリーマン・ショックでアメリカ経済は深刻な金融危機に陥っていた。オバマ大統領は就任演説で「我々は危機の真っただ中にある」と訴え、1カ月足らずで7800億ドルの財政出動を決め、アメリカ史上最大規模の景気対策に着手した。その後7年を超える景気回復で、失業率は最悪期に比べ半分以下に下がり、株価は3倍に膨れ上がった。医療保険制度改革(オバマケア)は内政面での最大の遺産だ。外交面では、10年4月、ロシアとの間で新戦略兵器削減条約(新START)に調印し、選挙公約であるイラクからの米軍撤退を11年末までに実現した。核開発問題を巡って対立していたイランとは15年7月、英仏独中露の5カ国と共に包括的共同計画を合意。キューバとは54年ぶりの国交回復を果たした。15年10月には、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意に漕ぎつけた。その一方で、ロシアが14年3月にクリミア半島の編入を宣言して以降は米ロ関係は「東西冷戦後では最悪」となり、核兵器の削減は進んでいない。トランプ政権誕生でオバマケアやTPPなどのオバマ遺産はないがしろにされた。