カナダの内閣制度は日本と対比するとかなり性格が異なる。第一に、カナダは、イギリス式議院内閣制の伝統を維持している。イギリスでは、君主は形式上統治するスタイルを取るが、実際は議会の決定に従うという原則が尊重されてきた。カナダでは君主の名代(代理)として総督が置かれ、首相を任命するのは形式上、総督である。そのため、日本のように総選挙後に衆議院と参議院で行われる首班指名の議決ではなく、総督が選挙結果を見て次の首相を任命する。単純に過半数に達していなくとも、一般的には議席数が多い政党が政権を担うことが多い。第二に、閣僚ポストや官庁などは法律で規定されていないため、首相の判断で新設したり、統合したりすることが可能である。最近の例として、移民政策を担当する官庁として市民権・移民省があったが、2015年のトルドー政権のもとで「移民・難民・市民権省」と改称されている。また、トルドー政権では環境省が「環境・気候変動省」に改称されている。政策内容は大きく変化するわけではないが、有権者へのアピール、ということで中央官庁の改組などが行われている。第三に、カナダにおいて閣僚という概念は事実上、存在しないと考えられる。これは行政権を担う閣僚たちは君主への政策提言やアドバイスを行う「枢密院顧問団(Queen’s Privy Council for Canada)」の一員として位置づけられるためである。閣僚に任命されると、名前のあとにP.C.という肩書がつくことになる。P.C.はPrivy Councillorの略称であり、この肩書がつくと生涯これを保持できることになる。ただし、金銭的な意味での特権はなく、あくまでも形式上のタイトルにとどまる。役割として、枢密院顧問団が君主(カナダなら総督)に政策上のアドバイスを行うが、すべての枢密院顧問が内閣を形成するわけではなく、ごく一部のメンバーが事実上の内閣を構成することになる。カナダ憲法(英領北アメリカ法、あるいは1867年憲法)において、内閣や首相のことは規定されておらず、枢密院が内閣に関する役割を担っていることになる。なお連邦政府の閣僚以外でも州政府の首相、連邦最高裁判所長官、下院と上院の元議長にもP.C.のタイトルが与えられている。枢密院顧問の正確な人数は不明である。