ウルグアイの中道左派連合「拡大戦線」のホセ・アルベルト・ムヒカを首班とする現政権。2010年3月に発足した。ウルグアイは農牧業の発展と20世紀初頭からの民主主義制度の定着により政治的経済的に安定し、「南米のスイス」と言われてきたが、1973年に軍事政権が成立した。軍政下ではおよそ200人の市民が当局により逮捕・誘拐され、殺害されたとされる。85年の民政移管後も19世紀以来のコロラド党・国民党(ブランコ党)による二大保守政党支配は変わらなかったが、2005年に「拡大戦線」のタバレ・バスケス政権(~10年)が成立し、保守派支配に終止符が打たれた。そのあとを継いだムヒカ現大統領は1960年代から70年代にかけて活動したゲリラ組織「民族解放運動(トゥパマロス)」の闘士であり、拡大戦線のなかでも左派の「人民参加運動」に属する。前政権から引き継いだ最大の課題のひとつは「失効法」の廃止である。同法は軍政下で人権侵害行為を犯した軍人の捜査・処罰をしないことを規定したもので、民政移管直後の86年にコロラド党のサンギネッティ政権下で採択され、89年と2009年に廃止のための国民投票が行われたが、二度とも否決された。これに対し、ムヒカ大統領は下院に対し10年10月に「失効法」を適用できないケースのみ軍人の裁判と処罰を行うための執行法修正案を、さらに11年10月には軍人の人権犯罪は人類に対する犯罪とみなし、処罰は免れないとする法案を提出した。いずれも多数派の拡大戦線だけの賛成で成立した。