メキシコでは麻薬取引組織間の抗争、麻薬組織による警察などの取り締まり組織への襲撃、みせしめのための一般市民の殺害が激化している。メキシコのホルナダ紙(2011年12月31日)によれば、現カルデロン政権発足後5年間(06年12月~11年10月)に殺害された人々は総計8万17人、そのうち75%が麻薬取引組織関係者であった。11年3月には詩人のハビエル・シシリアの子息が殺害され、これを機に市民による麻薬撲滅運動が広がった。かつて、ラテンアメリカではコロンビアのメデジン・カルテルとカリ・カルテルがよく知られていたが、1980年代にいわゆるフロリダ・ルートが閉鎖されてからは、メキシコがコカインの供給ルートとして急浮上した。主要な麻薬組織はシナロア・グループやセタなど7カルテル。チワワ州、シナロア州、フアレス市などを中心に全国で活動している。アメリカ国務省によれば、アメリカのコカインの90%はメキシコ経由である。近年、メキシコでは経済成長に陰りが見えており、それとともに所得格差の拡大、雇用情勢の悪化、実質賃金の低下など下層大衆の生活はひっ迫している。政府にとっては経済活性化のためにも治安を回復し外資を一層誘致する必要があるが、取り締まりを強化すればするほど麻薬戦争も激化するというジレンマにある。