2011年4月のキューバ共産党第6回大会で「党と革命の社会経済政策に関する基本方針」が承認され、半世紀余り続いたキューバ固有の「平等主義体制」の抜本的転換が始まった。キューバでは1959年の革命直後から、基本的生活物資の配給制度と、教育と医療の無償制度を基盤とした手厚い社会保障制度等により、すべての国民に等しく基本的生活が保障され、所得格差も極めて小さい「平等主義体制」がとられてきた。そのため経済運営体制も中央集権的であり、国営企業が90%以上を占めていた。しかし、1980年代には「平等主義体制」の限界が指摘され、91年10月の第4回共産党大会で転換方針が決まった。その直後に経済的に依存していたソ連の解体による深刻な経済危機が発生し、外資の積極的導入、個人経営や小農民の拡大などのいわゆる「経済自由化政策」がとられた。その後も改革は続いたが、経済的社会的弱者への配慮から一進一退を繰り返した。そのために、むしろ逆に生産の低迷、物資の横流しなどの腐敗の拡大など矛盾が深まり、もはや抜本的制度転換は急務であるとして、第6回党大会において新しい体制の基本方針が決定された。基本方針では、国民生活の保障と自立的経済発展の実現のために「社会主義を維持する」としているが、国営企業は縮小され、独立採算制度へ移行する。その一方で個人営業、協同組合農場、小農民が拡大される。また、教育と医療の無償制度は維持するが、経済的社会的弱者の保護を重視した制度へ転換する。党大会後、改革は急進展し、63年から続いてきた配給制度も2012年1月に撤廃された。しかし、約100万人とされる公務員のリストラ計画は11年末までに10%程度が実施されたにすぎない。また配給の廃止により生活困窮者も出ており、弱者保護と体制転換の間での綱渡りが続いている。