ブラジルの中道左派政党で、ジルマ・ルセフ大統領(2011年~)の与党。労働者党(PT)は、旧軍事体制(1964~89)下の80年2月に、サンパウロを拠点とする労組の指導者、左派知識人、環境や人権活動家、「解放の神学」系の神父などにより結成され、82年2月に正式に政党登録された。88年の新憲法制定以降初の大統領直接選挙(89年12月)では党首のルラが立候補したが、決選投票で国家再建党のコロルに敗れ、その後も94年、98年の大統領選でともにブラジル社会民主党のカルドゾに惜敗した。しかし、2002年10月の大統領選では同国史上最大の得票数をもってついにPT政権が樹立され、06年の選挙でも再選された。さらにルラからジルマへとバトンが渡された10年の選挙でも勝利し、すでに3期12年にわたってPTは与党の座を維持している。その政治・経済的効能に関しては賛否両論あるものの、PTがブラジル政治にもたらした新奇さの例としては、地方自治体レベルでの「参加型予算」が有名である。また同じく、PT自身が急進左派イデオロギー志向の強い大衆政党から、選挙戦術に長けたプラグマティックで時にエリート主義的な包括政党に転身したこととシンクロする「ブラジル政党システム全体の制度化」の進展も、PT政治のもたらした「新しさ」として特筆に値する。ただし、そうした「新しさ」は、PTのかつての重要な支持基盤であった市民社会における様々な社会運動や団体との緊密な関係の希薄化と裏腹であったという点は留意されてよい。