地球温暖化による海氷減少に伴う、北極海における関係諸国間の利権獲得競争と同海域の地政学的見直しを、ロシアの立場からみる。ロシア北方の海岸線の大半は北極圏に属する。ロシア政府はソ連末期以降低迷していた北極海航路(全長約4800キロメートル)の商業運航について、海氷面積の減少による航行期間の拡大が見込め、スエズ運河経由のユーラシア南回航路と比べ距離・日程を短縮できるとの利点から再活性化を進めている。現在北極海航路で活動している原子力砕氷船(5隻)の耐用期限が迫るなか、2013年8月19日、メドベージェフ首相は大型原子力砕氷船2隻の新造に関する政府決定に署名(19年および20年就航予定)。航路はユーラシアの東西をつなぐだけでなく、シベリアで産出される天然資源の輸送の担い手となることも期待されている。他方、油田・ガス田開発に伴う自然環境の破壊が懸念されている。国家安全保障の観点からもロシアは北極海を新たな方面として重視。13年9月16日、プーチン大統領はノボシビルスク諸島内にあるテムプ飛行場の軍用の再開を指示。併せて、北方艦隊所属のミサイル巡洋艦などが同諸島海域に派遣された。ロシアは大陸棚の延伸状況から、北極点を含めた領域を自国領とする姿勢を示している。(→「北極海に国旗掲揚(ロシア)」)