2011年の紛争開始当初より、ロシアはシリア安定化に必要なのは正統な政府の存在であるとして、アサド政権を支持し、財政支援・物資供与を続けてきた。2015年9月末より、ロシアはアサド政権からの要請を受けシリア領内での軍事介入を継続している。また、「イスラム国」(IS)以外の反アサド勢力を事実上の攻撃対象とした。ロシア軍は、地中海沿岸の都市ラタキア近郊のバッシャール・アル・アサド国際空港を軍事基地として駐留。航空宇宙軍所属の戦闘機・装備を投入するとともに、地中海上のキロ級潜水艦やカスピ海上の艦船から巡航ミサイルによる空爆も行った。ロシアとしては、事実上アサド政権を支援し、和平交渉を自陣営側に有利に進める政治的成果を得るとともに、最新鋭の装備を実戦で使うことにより各国に武器の威力を示す絶好の機会となった。16年3月、プーチン大統領はシリア駐留軍の部分的撤退を命じるという「政治的演出」を行ったが、その後もロシア軍の展開は続いている。16年3月の世界遺産パルミラのISからの奪還(ただし、同年12月にISが再占領し、アサド軍は17年3月に再奪還)、16年12月のアレッポの制圧(この事件は、西側諸国からは反アサド勢力の後退として否定的に評価されている)などを、ロシアは自国軍の展開の成果として肯定的に評価している。他方で、病院への誤爆により、一般市民が犠牲となるなど、否定的な事件も報告されている。また、トルコによるロシア軍機撃墜事件(15年11月)もこの軍事介入の過程で発生した。