2011年に起きたシリア内戦の長期化に伴い、住む場所を失い難民となったシリア国民のこと。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば15年10月現在、同国の人口約2200万人のうち、国外へ逃れたのは400万人以上とされる。「アラブの春」に始まる政情不安で、中東や北アフリカの紛争地域からヨーロッパに流入する難民の数が近年急増しているが、とくに15年になって、ロシアの空爆や過激派組織「イスラム国」(IS)支配地域のシリアから逃れてきた難民が増え、国内の避難民を加えると人口の過半数が難民化しているという。こうした難民は、当初船による「地中海ルート」でイタリア、ギリシャからEU(欧州連合)域内に入るケースが多かった。だが、密航業者らによる悪辣(あくらつ)な手口により、遭難事故や人身売買などの被害者が増えたため、15年春からEUが地中海の海上警備を強化。そこで今度はトルコを横断してバルカン半島を北上し、オーストリアからドイツ、スウェーデンなどのより裕福な国を目指す「バルカンルート」を選ぶ難民が急増した。その結果、域内の自由移動を認めた「シェンゲン協定」(→「シェンゲン協定の拡大」)の圏内南端にあるハンガリーなどに難民が押しかけた。EUは15年5月と9月の2回、緊急施策と今後の方針を規定した包括的政策「欧州移民・難民アジェンダ」を採択。まずは、地中海上での警護能力を3倍に引き上げ、海上を漂流していた12万人超の難民を救助した。さらに、移民と国境管理に計上されていた多年次予算70億ユーロ(14~20年)に加え、支援金として7000万ユーロ超を加盟国に割り当てた。また、周辺国に滞在するシリア難民とその庇護国に対し、経済や政情の安定化支援を目的として、58億ユーロを拠出するなど、多額の予算を充当している。しかし、その後押し寄せる難民に対応困難となったバルカンルートの通過国が、次第に難民流入拒否に転じ、入国制限や国境封鎖などの強硬策を取るようになった。またEUも、最大の経由地トルコと協議して、不法移民の本国送還などの抑制対策を強めている。