2007年12月に調印されたリスボン条約は、08年6月の国民投票で批准が否決されたアイルランドが、09年10月の第2回目の国民投票で67.13%の賛成を得て批准が認められたことで発効することとなった。しかしヨーロッパ統合に消極的なチェコのクラウス大統領は、議会が圧倒的多数で批准承認を行ったにもかかわらず署名しなかったため、発効が危ぶまれた。結局、クラウス大統領がドイツのメルケル首相の説得に応じて署名したことで、ようやく09年12月1日をもってリスボン条約は発効した。09年11月19日に開催された欧州連合(EU)臨時首脳会議で、政治統合の進展を象徴するリスボン条約の目玉ともいうべき初代のEU大統領(加盟国首脳が会する欧州理事会の常任議長)にヘルマン・ファンロンパイ(ベルギー首相)が選ばれ、また外交・安全保障政策上級代表(外相に相当)には女性でイギリス出身のキャサリン・アシュトン(通商担当欧州委員)が選任され、歴史的な第一歩が踏み出された。当初、EUの対外的な顔ともなる大統領職にはイギリスのトニー・ブレア前首相などの大物政治家が就くものと予測されたが、大国支配の印象を嫌う中小国やドイツやフランスの支持を受けて、国際的には無名のファンロンパイに白羽の矢が立ち、また加盟諸国の主流となっている中道右派政権とバランスをとる形で、中道左派色の強いアシュトンに外交・安全保障政策上級代表の地位が与えられた。大国と中小国からなる28の加盟国間の協調体制を維持せざるを得ない、EUの苦悩の選択がにじむ。