アデン湾からソマリア半島を経てケニアのモンバサ沖に至るまでのインド洋広域で、近年、貨物船やタンカーなどを小船で襲い身代金を要求する海賊行為が多発している。2008年だけでも100件前後に達し、ナイジェリアのニジェール川デルタ地帯で頻発する襲撃事件を上回る規模となった。08年4月には日本のタンカーがイエメン沖で被弾している。海賊行為を行う武装集団は、ソマリア暫定政府とその正統性を認めないイスラム武装勢力との間の内戦による無政府状態に乗じて拡大。その目的は身代金で、宗教的政治的背景は必ずしもなく、人質の殺害などは報告されていない。同年6月、国連安全保障理事会が、ソマリア領域内での海賊行為に対する実力行使を、各国に対して認めるとする決議を、全会一致で採択した。以降、国連安全保障理事会は決議を繰り返し採択し、フランス、ロシア、アメリカ、インド、中国、韓国、日本などが同海域に艦船を派遣しているが、今のところ必ずしも効果が上がっていない。海賊行為の根本的な原因は、ソマリア内戦が全土で収まらず、欧米とエチオピア、ケニアなどのアフリカの同盟国が支援するソマリア暫定政府の領域支配が未完のため、住民が正常な経済活動ができないことにある。したがって海賊行為は、内戦下で住民が生き残るための活動という側面を有し、近年増加している襲撃された船舶の身代金は、11年には100億円以上に達し、その資金はソマリアの地域経済に貢献しているというイギリスの研究所の調査報告も12年初頭に発表された。(→「ソマリア」)