中央アジア諸国間での水資源の配分とエネルギー資源と電力の供給をめぐる政治的な対立のこと。中央アジア地域にはアムダリヤ川とシルダリヤ川という2大河川が流れ、流出河川のない陸封湖(りくふうこ)であるアラル海に注いでいる。その上流に位置するキルギスとタジキスタンには豊富な水資源と水力発電所を伴う巨大なダムが存在するが、山がちな地形から灌漑(かんがい)農業はさほど発展しておらず、かつ、天然ガスや石油といったエネルギー資源に乏しい。これに対し、中下流に位置するカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンでは綿作と稲作を中心とする灌漑農業が発達し、かつ、エネルギー資源を豊富に産出する。上流国は酷寒の冬季に放水して暖房用に水力発電を行いたいのだが、中下流域で水資源が必要なのは農作物が生育する夏季である。ここに構造的な水資源利用の対立がある。しかも、上流国は貧困国であり、中下流国から輸入する石油・ガスの費用をたびたび滞納するため、需要の大きい冬季にウズベキスタンが資源の供給を停止させる。これにより、特にタジキスタンではしばしば冬季に停電が起こり、市民生活に多大な影響を及ぼしている。冬季電力不足を解消するため、上流国は大規模ダムを追加で建設する意向を示しており、これらのダムから灌漑向けの夏季放水により生み出される電力を隣国のアフガニスタンやパキスタンに売却する電力貿易・送電計画(CASA1000)もあるが、灌漑用水のさらなる調整機能を上流国に握られることを嫌う中下流国は反発している。これらの対立により、ソ連時代に構築された中央アジアの統一電力系統は機能不全に陥っている。現在、アラル海縮小に伴う生態危機に対応するために中央アジア5カ国のイニシアチブによって設立された地域機構であるアラル海救済国際基金(IFAS)が水資源・エネルギー問題を含む地域対話の場となり、国連欧州経済委員会(UNECE)が上下流国の対立の調停を行っているが、地域全体の水資源が逼迫(ひっぱく)する中で問題の解決は決して容易ではない。2016年5月、キルギスがIFASでの活動を一時停止すると通告し、水資源をめぐる地域協力は危機に瀕している。