2013年、中国の国家主席に就任して間もない習近平(シー・チンピン)が提唱した新たな経済圏構想のこと。「シルクロード経済ベルト」とは、中国から欧州へと抜ける陸域の輸送回廊を通じた経済圏(一帯)のことであり、13年9月、習近平によるカザフスタンのナザルバエフ大学での講演の際に提起された。同年10月、習近平はインドネシア国会での演説の際に「21世紀海上のシルクロード」構想(一路)も公表しており、この二つを合わせて「一帯一路」構想と呼ばれている。「一帯一路」には日本から欧州までユーラシアのほぼ全域と東アフリカの一部が含まれる。中国が主体となって関係国の道路・鉄路・発電所等のインフラを整備し、物流・商取引を活性化させることで、中国製品の輸出拡大を目指すと共に、関係各国の経済を押し上げることを目指している。14年に中国政府のアジア向け投資基金としてシルクロード基金が、15年に国際機関としてアジアインフラ投資銀行(AIIB)がそれぞれ創設され、これらがプロジェクトの資金供給元となっている。「一帯一路」構想は中国国内の地域経済発展戦略でもある。西部大開発など、これまでの中国の地域経済政策は、開発途上地域への重点投資による支援政策と言い得るものだった。これに対し、「一帯一路」では、市場原理に基づいて、経済先進地域である中国東部沿海部と、輸送回廊の沿線に当たる内陸部での生産の集中と分散を共に目指すことを特徴としている。中国内陸部が、輸送回廊の沿線上にある諸外国に向けた輸出製品の生産基地となることも想定されている。
中央アジア諸国も概ねこの中国のイニシアチブを歓迎しており、将来的には中国からキルギス、タジキスタンに抜ける鉄道の建設なども検討されている。しかし、同時に、中央アジア諸国が中国に期待しているのは、物流インフラの整備によって、中国製品の消費国となる、あるいは、欧州への輸出の経由国となることだけでなく、技術移転を伴った生産基盤の構築による産業構造の改革と近代化である。この点では中国と中央アジア諸国の意向が必ずしも噛み合っているわけではない。また、シルクロード経済ベルト上にはロシアが主導する地域機構としてのユーラシア経済連合も存在する。16年6月、ロシアのプーチン大統領は、ユーラシア経済連合と中国、インド、パキスタン、イラン、欧州諸国などとの経済的連携を図る「大ユーラシア・パートナーシップ」締結という構想を提案した。これは、中国が主体となる経済的なイニシアチブへの歓迎と牽制という相反する二つのメッセージが込められていると言える。