民主党が2009年末に新たに創設した子ども支援のための給付金制度。賃金は労働に対する対価として支払われるので、子どもの養育費については賃金とは別の形で支払うようにしないと、次世代を担う児童の育成は果たせない。税金で賄うか保険料で賄うかの違いがあるが、各国で児童の養育費を賃金とは別に支払う児童手当や家族手当が制度化された論拠はこの点にあった。日本では正規労働者の賃金体系が年功序列型で家族手当も含まれていたので、社会保障としての児童手当はようやく1972年に誕生したものの、大きな役割を果たすにはいたっていない。しかし90年代後半以降、日本でも非正規雇用労働者の比重が大きくなり、低賃金が一般化して夫婦共働きでも子どもが育てられない状態が広まると、それが出生率低下の背景要因とも見なされるようになって、本格的な児童手当の必要性が論じられるようになった。
民主党が2009年のマニフェストで示した子ども手当の案は、中学卒業までのすべての児童に月額2万6000円(10年度は半額、11年度より全額支給)を所得制限なしに支払うというもので、そのための5.3兆円に上る財源として所得税の扶養控除や配偶者控除を見直すことなどがあげられていた。扶養控除や配偶者控除は高所得者に有利で、多くの国が児童扶養控除を廃止してその財源を児童手当に振り向けており、民主党の提案もこうした流れに沿ったものであるが、本格的な社会保障の財源政策を打ち立てない中での提案であったため、これまでの児童手当の財源を活用すべきであるとか、所得制限を導入すべきであるとか、扶養控除や配偶者控除はなくすべきでないといった主張が与党内から噴出して子ども手当の議論は迷走した。当面10年度に向けては、所得制限は設けず、所得税や住民税の扶養控除は段階的に廃止し、これまで児童手当を負担してきた地方と企業にも財政負担を求める形で決着したが、5.3兆円の財源が必要となる11年度以降の財源措置はまだ不透明のままである。