近年、家庭や施設での高齢者虐待が増加し、それに対応する法的な整備が求められていたが、ようやく2005年11月、「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が議員立法で可決成立し、06年4月から施行された。同法では、高齢者虐待を「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が損なわれるような状態」とし、(1)養護者(高齢者を世話をしている家族、親族、同居人等)による虐待、(2)養介護施設従事者等(老人福祉法および介護保険法に規定されている施設サービス、居宅サービス等に従事する者)による虐待に分けている。虐待の種類は、(1)身体的虐待、(2)介護・世話の放棄・放任、(3)心理的虐待、(4)性的虐待、(5)経済的虐待とされている。具体的な対応としては、養護者による虐待については、(1)家族や高齢者本人への相談・助言、(2)早期の発見と迅速な通報、(3)高齢者の安全確保と事実の確認、(4)必要な場合、短期入所サービスや特別養護老人ホームへの入所措置などが規定されている。行政としてはとくに市町村に一次的な責務があり、必要な場合、高齢者の一時保護、高齢者宅への立ち入り調査、警察への協力依頼などができることになった。ただ、養護者による虐待の背景には、介護にともなうさまざまな負担がある場合も多いので、同法では、養護者(家族)に対する具体的な支援の必要性も盛り込んでいる。05年に成立の改正介護保険法で新設された地域包括支援センターは、「虐待の発見・防止」を業務の一つとしており、最も身近な拠点的対応機関である。一方、養介護施設等での虐待については、施設の設置者等への虐待防止措置の義務付けや、職員の通報義務が規定されている。