戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という平和三原則を定めた憲法の条文。常に改憲論の対象であり、自民党の改憲草案の立場はもちろん、個別的自衛権に限って正面から憲法で認めようとする立場からも、戦力の不保持と交戦権の否認について改憲が主張されることが多い。イギリスのマグナカルタ(1215年)に遡る立憲主義は「憲法で国家権力を制限する」という意味だったが、フランス人権宣言(1789年)などの近代憲法では、権力制限が「個人の尊重」を目的とすることが自覚された。日本国憲法は、この近代立憲主義を一歩進め、平和をも憲法の目的とする。徹底して個人を尊重するには、個人を国家の戦争の道具にしないこと(一切の戦争放棄)、国家同士の多様性を認める相互関係を外交努力によって作ること(平和的生存権、人間の安全保障)が必要だからである。その点からいえば、戦力の不保持と交戦権の否認条項を削除または制限することは、日本国憲法の先進性を後退させることになる。