2000年12月8日から5日間にわたって開催された「女性国際戦犯法廷」を取り上げたドキュメント「問われる戦時性暴力」を放送(01年1月30日)したNHKと、制作を孫請けしたドキュメンタリー・ジャパンに対して、主催者である「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット・ジャパン)が起こした訴訟。メディア取材はメディア側と取材される側との信頼関係が確立されて初めて成り立つ。バウネット・ジャパンは「番組提案票」を提出して取材を申し込んだドキュメンタリー・ジャパンに対して、取材等に特別な便宜を与えたが、放送された番組はバウネット・ジャパン側が期待し、協力した内容とはならなかった。このため、バウネット・ジャパン側はNHK側に対して慰謝料2000万円の支払いを求めた。04年3月24日、東京地裁は取材される側の「期待権」が損なわれたとして、取材したドキュメンタリー・ジャパンに100万円の支払いを命じたが、編集権が保障されるとして、NHKへの請求は棄却した。07年1月29日の東京高裁判決では、番組の改編に対して政治家の直接介入は認めなかったものの、NHK幹部が政治家の発言を受けて、当初の方針を離れた編集を指示したと認定し、バウネット・ジャパン側の期待と信頼を侵害したと判断した。期待権侵害を認めることは編集の自由の侵害に当たるというNHK側の主張に対しては、外部からの「圧力」による番組改編は、編集の自由権の範囲内とはいえないとして、NHKと制作会社など2社に計200万円の支払いを命じた。しかし最高裁は、08年6月12日、取材対象であるバウネット・ジャパンが番組内容に対して抱く期待は原則的に法的保護の対象とはならないとして、NHKの「編集の自由」を認め、NHKなどに計200万円の賠償を命じた2審・東京高裁判決を破棄し、請求を却下した。(→「NHK番組改変問題」)