2005年1月12日、朝日新聞はNHKが01年1月30日に放送したテレビ番組「問われる戦時性暴力」について、中川昭一衆議院議員、安倍晋三官房副長官(ともに当時)が放送前日にNHK幹部を呼び、「偏った内容だ」などと指摘、これを受けてNHKは番組内容を変えて放送していたことを報じた。翌13日、番組制作の現場責任者であった長井暁教育センター・チーフプロデューサーが会見し、04年末にNHKの内部告発窓口である「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」に対し、幹部が政治介入を許したとして調査を求めていたことを明らかにした。これに対してNHKは14日、安倍、中川両氏に呼びつけられた事実はなく、安倍副長官には放送の前日ごろ事業計画の説明で出向いただけであり、中川議員との面会は放送の3日後であったと朝日新聞に対し文書で事実誤認を指摘し、また放送前に試写が行われるのは異例ではないとも主張した。18日、朝日新聞は朝刊で取材の経緯を詳しく報じた。19日には、当時NHK放送総局長だった松尾武NHK出版社長が記者会見し、朝日新聞記事に登場する「NHK幹部」が自分であることを明らかにしたうえで、政治的圧力を感じていないと答えたのが逆になって報道されており、記事の内容はねじ曲げられていると語った。一方、朝日新聞は21日、NHKが開いた会見や一連の報道について「虚偽の事実を示し、朝日新聞社の名誉を著しく傷つけた」と、法的措置を前提にして訂正と謝罪放送を求める通告書を出した。NHKも同日、公開質問状を出し、安倍、中川両氏がNHK幹部と接触した事実関係についての裏付けや根拠となる事実の確認などについて回答を求めた。その後、朝日新聞とNHKの間では質問状など書面で何度か応酬があった。09年4月28日、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会はNHKが放送直前に番組を改編したことはNHKの自主自律を危うくし、視聴者に疑念を抱かせるものであるという意見書を公表し、NHK幹部が番組の放送前後に与党の有力政治家と面談したことには強い違和感を抱くと述べ、放送人は政治と放送との間に距離を取る配慮が必要であることを強調した。