2006年6月に起きた、奈良県田原本町の医師宅が全焼し、母子3人が焼死した放火・殺人事件を取材した『僕はパパを殺すことを決めた』(講談社)が、「奈良県警が残した供述調書を含む捜査資料およそ3000枚」を入手したことを明らかにした上で、調書をほぼ原文のまま引用していたことから、東京法務局は07年7月12日、講談社と著者の草薙厚子に対して被告である長男(当時高1)のプライバシーなどの人権を著しく侵害したと判断し、謝罪や被害拡大防止などに取り組むことを勧告した。奈良地検は10月14日、調書を流出させたとして被告の精神鑑定をした医師を刑法の秘密漏示容疑で逮捕、11月20日に奈良地裁に起訴した。著者の草薙に対しては嫌疑不十分で不起訴処分にした。出版元の講談社が設置した第三者調査委員会は08年4月9日、調査報告書を公表し、入手した調書を同社の三つの出版物で使いまわし、その過程で取材源との約束が破られたことを明らかにし、その無防備さと無自覚さが表現の自由の保証に悪影響を与えたと述べ、社会的責任の重さを論じた。この事件は取材源の秘匿について、著者と出版社があまりにも安易に対処したことから、表現の自由に傷をつけることになった。