広島県福山市にある鞆港の浜を埋め立て、港内を横断する橋をかけて県道を整備し、フェリー埠頭(ふとう)などを造るとした広島県と福山市の計画。鞆の浦(とものうら)は万葉集にも歌われ、江戸時代の港湾施設の常夜灯や雁木などが残る歴史的景勝地。宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」の舞台ともされる。景観保護と道路整備効果などによる利便性をめぐり、住民の意見が対立。反対派住民らが2007年に埋立て免許差し止めを求めて提訴した。広島地方裁判所は09年10月、県知事に対し、埋立て免許の交付を差し止める判決を言い渡した。鞆の浦の景観を「国民の財産ともいうべき公益」と指摘し、住民が享受する景観利益に埋め立てが重大な侵害を及ぼす恐れがあるなどとした。県は、市議会の議決を経ていることなどから、「公共事業全般に甚大な影響があり、容認できない」として控訴した。16年2月に広島高裁で行われた控訴審で、県は埋め立て架橋計画を正式に撤回。反対派住民側も訴えを取り下げた。1983年の策定から30年以上を経て計画は白紙になった。