日本の雇用の約7割を中小企業が担っているが、その中小企業は後継者の不在により廃業が続いている。これに伴う雇用の喪失が大きい。この後継者の問題は、事業をスムーズに承継する問題でもあり、その解決策の一つとして、2008年5月9日に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(円滑化法)が制定された。施行は同年10月1日。円滑化法は中小企業者を対象としている。例えば、製造業の場合は、資本金が3億円以下または常時使用する従業員の数が300人以下で、株式市場に上場などをしていない会社が対象になる。
事業承継は、例えば父親が経営している会社の株式を後継者である子どもが受け継ぐことが多い。しかし、民法の遺留分の適用がある。「遺留分」とは、例えば相続人が子ども2人の場合には、本来の相続分は2分の1ずつになる。父親はその1人だけに全財産を相続させるという遺言書を作成することがある。その場合でも、遺言書で外された他の子どもは本来の相続分の2分の1、前述の例では4分の1について相続する権利を認めているのが遺留分の制度。円滑化法は、遺留分について特例を設けた。具体的には、推定相続人の全員の合意があれば、後継者が生前に中小企業者である会社の株式の贈与を受けたとしても遺留分を計算する財産の価額に入れないという除外合意や、財産の価額に入れる場合においても合意時の価額とすることができるとした(固定合意)。円滑化法に基づいて生前に後継者に株式を贈与するが、この場合でも受贈株式は贈与税の対象になる。そこで、09年の税制改正で「事業承継のための贈与税の納税猶予制度」を創設した。具体的には、後継者が円滑化法に基づいて経済産業大臣の認定を受けた会社を経営していた親族(父親)から贈与によりその株式の全部を取得した場合には、贈与税を納税猶予する。ただし、納税猶予額は、後継者が贈与前から保有していたものを含めて発行済議決権株式の総数の3分の2に相当する金額を限度とする。贈与した親族(父親)が死亡した場合には、この特例を適用して贈与を受けた株式を相続により取得したものとみなし、贈与時の時価で他の相続財産と合算して相続税額を計算する。なお、贈与者や受贈者が死亡したり、次の後継者にその株式を贈与した場合には、贈与税が免除される。17年度の税制改正では、申告期限後に継続して守り続けなければならない要件について、例えばその会社の事業の用に供する資産が災害によって甚大な被害を受けた場合は、本来の要件を緩和する措置を講じるなど、この特例を使いやすいように改正した。18年度の税制改正では、10年間(18年1月1日から27年12月31日)の特例措置として、これまでの規定を残しながら別の規定を創設して、大幅に適用要件を緩和する。(→「事業承継のための相続税の納税猶予制度」)