中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)に基づき、経営承継相続人が、経済産業大臣の認定を受けた非上場会社の議決権株式を相続等により取得した場合には、相続税の納税猶予を受けることができる。ここでいう納税猶予とは、その経営承継相続人等の死亡の日まで、その納税をしなくてよいことをいう。その後継者がその事業を引き継いだ場合は、新たに相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。納税猶予は、申告期限後の5年間は株式を継続保有し、後継者がその会社の代表者であること、雇用の8割を維持するなどの要件を守り、その後も株式を継続して保有していることを条件に相続税の納付を免除するというもの。2009年度の改正で創設された。しかし、適用を受けるための要件が多く、かつ厳格なので利用度が低かった。そこで13年度では、この制度を使いやすくするために次の点を改正した。
(1)経営承継相続人は、非上場会社を経営していた被相続人の親族であることとするという要件を撤廃する。つまり、優秀な番頭さんも後継者とすることができる。
(2)納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件は、現行の毎年80%以上を確保しなければならない点を、経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)における常時使用従業員数の平均が、相続開始時における常時使用従業員数の80%以上の確保に緩和した。
(3)利子税の負担軽減、納税猶予額の計算方法などを見直す。
なお、相続人が死亡したり、次の後継者にその株式を贈与した場合には、相続税が免除される。これと同様の制度は、贈与税についても設けられており、同様に適用要件などを緩和した。
17年度の税制改正では、申告期限後に継続して守り続けなければならない要件について、例えば、その会社の事業の用に供する資産が災害によって甚大な被害を受けた場合は、本来の要件を緩和する措置を講じるなど、この特例を使いやすいように改正した。しかし、このような税制を通して事業承継を誘導しても、中小企業の廃業が続いている。
そこで、18年度の税制改正では、10年間(18年1月1日から27年12月31日)の特例措置として、これまでの規定を残しながら別の規定を創設して、大幅に適用要件を緩和する。例えば、(1)納税猶予の対象となる株式数は、発行済株式の総数の3分の2の持株があれば株主総会ですべて議決できるので、3分の2が特例の対象とされていた。それを全株式に拡大する。(2)相続税の納税猶予の割合を80%から100%まで拡大する。(3)納税者がこれまでこの特例の選択を躊躇してきた事業承継後5年間にわたり従業員の数を事業承継前の80%を維持するという雇用確保要件を緩和する。改正後は、この雇用確保要件を満たさない場合でも、その理由が経営悪化などであるときは、認定支援機関の指導助言を受けることによりこの要件を満たすことにする。また、事業承継後に会社をM&Aなどで譲渡したり、解散したような場合は、そのときの株式価値に基づき税額を再計算してこれまでの納税猶予額との差額を減免する規定を設ける。さらに、これまでは承継者は1人に限定していたが、改正後は最大3人までこの事業承継税制の対象者とする。すでに親族外の後継者については、新たに相続時精算課税制度の対象に加えるなどの改正を行う。(→「事業承継のための贈与税の納税猶予制度」)