甲状腺は、頸部の前面で喉頭(こうとう)のすぐ下にある内分泌腺である。分泌される甲状腺ホルモンはヨウ素を含み、細胞での代謝を活発にさせる。甲状腺の細胞は、濾胞(ろほう)という小さな袋を取り囲んでおり、この中にはヨウ素を含むチログロブリンというたんぱく質を蓄えている。チログロブリンを分解して甲状腺ホルモンを作り、血液中に放出する。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺機能低下症を起こす。体内に取り込まれたヨウ素は甲状腺の濾胞に集積するので、放射性ヨウ素を摂取した場合は、甲状腺が被曝する。1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故では、放射性のヨウ素131(131I)が大量に放出され、住民に甲状腺がんが多発した。ヨウ素131は、機能亢進性の甲状腺腫を取り除く放射線ヨウ素治療に用いられる。半減期の短いヨウ素123(123I)は、甲状腺の機能や形状などを画像診断するための甲状腺シンチグラフィーに用いられる。