ヒトの21番目の染色体が3本あることによって起こる「ダウン症」の治療。この病気は先天性の染色体異常を原因とするため、現時点では根本的な治療法はないとされている。そうした中、2017年9月5日、京都大学のグループが科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した論文によれば、ダウン症の原因となる21番染色体上では遺伝子(DYRK1A)の働きが過剰になり、神経細胞の増加が抑えられて知的障害などを起こすことが判明した。そこでマウスによる実験で、神経幹細胞を増加させる候補化合物「アルジャーノン」をダウン症の胎児を妊娠している母マウスに与えたところ、胎児の大脳皮質に変化が見られ、症状が改善されたという。また、このグループはダウン症の人の細胞から作成したiPS細胞でも、アルジャーノン投与による神経幹細胞の増加を認めている。これらの研究によって治療への期待は高まっているが、ダウン症は知的障害の他にも心疾患などさまざまな症状を示すので、今回の研究は限定的なものである。また、ダウン症については「個性」として捉えようという見方もある中で、治療の意味についても慎重に議論されていく必要があろう。