ノロウイルス感染による食中毒。ノロウイルスは小型球形ウイルスともよばれ、非常に小さなRNA (ribonucleic acid)ウイルスで、起因する食中毒の多くは冬に起きる。以前はウイルスに汚染したカキなどの二枚貝の生食が原因だったが、近年は感染者の糞便や吐物、食品取扱者(調理者や食品製造者など)からの汚染が原因となることが増えている。後者では感染者の乾燥した吐物に指が触れ、口や食品から感染することがあるため、汚物や食品の取り扱いには十分な注意が必要である。汚染物の消毒には次亜塩素酸ナトリウム液が有効であるが、塩素系漂白剤(水で希釈した0.1%液)で代用できる。このウイルスには外皮がないので、消毒用アルコールは無効である。ウイルス感染後は、24~48時間後に腹痛、下痢、吐き気、嘔吐(おうと)がみられ、発熱はまれである。症状は2日ほどで消失し、多くは自然治癒し、後遺症はない。症状が非常に軽い患者もいる。患者糞便へのウイルスの排出は1週間ほど持続するので、食品取扱者が感染した場合には、しばらくその取り扱いから離れることがすすめられる。有効な抗ウイルス剤はない。患者には水分と、栄養の補給を十分に行う。高齢者には、死亡例があるので注意が必要である。