全身の諸臓器の細胞外にアミロイドと呼ばれる繊維構造を持つたんぱくが沈着することによって機能障害を起こす疾患をアミロイドーシスと呼ぶ。このアミロイドーシスの中でも特に末梢神経系(感覚神経、運動神経、自律神経)が障害される疾患として、遺伝性の家族性アミロイド・ポリニューロパチー(FAP)が知られている。FAPは臨床的に4型に分類されてきたが、特に1型と呼ばれる常染色体優性遺伝を示すものが多い。この疾患の原因遺伝子はトランスサイレチン(TTR)であり、肝臓で作られた変異型TTRがアミロイド繊維を形成して全身の臓器に沈着する。20~30歳代で下痢と便秘・ED等の自律神経障害や、下肢の痛み・しびれといった感覚障害で発症することが多く、全身に症状が進んで発症後約10年で死亡することが多いとされる。TTRが肝臓で産生されることから、患者の肝臓を摘出して異常なTTRが産生されないようにし、肝機能は肝移植によって補うという治療が行われており、その有効性が確認されている。FAP患者より摘出された肝臓は、変異型TTRを産生するということ以外は正常のものと相違ないため、摘出肝を再利用し、肝細胞がん、転移性肝がん、肝硬変等の重症の肝疾患患者に移植する、いわゆる「ドミノ移植」も実施されるようになった。移植された肝臓から産生された変異型TTRによってFAPを発症するリスクは存在するが、FAPの発症が20~30歳代であることから考えて、移植後20年程度は問題ないものと想定されていた。しかし、最近ドミノ移植を受けた患者が3~8年という短期間でFAPを発症した例も報告されている。