ゲノムとは生物の設計図にあたる全遺伝情報のひとそろいで、ヒトの場合は約30億個の塩基配列により構成されている。ゲノム創薬とは、このゲノムデータを利用し遺伝子レベルで病気の原因を調べることにより、患者個人の病態に合わせた新薬を効率良く開発することである。これまでの医薬品開発は、多くの物質の中から経験や偶然に頼りながら医薬品として役立つ物質を見つけ出す、という方法であった。その医薬品は不特定多数の患者を対象としており、すべての患者に効果があるわけではなく(平均有効率は70~80%)、一定頻度で副作用が出現する。さらに主として症状の改善を目的とした対症療法に用いられている。それに対してゲノム創薬による医薬品は、患者個人あるいは同じような病態をもつ少数の患者集団を対象としており、いわゆるテーラーメード治療が可能となる。患者の具体的な疾患特性に合わせて作られるため極めて有効率が高く(ほぼ100%)、副作用はほとんど現れず、現れる場合にも予測が可能と考えられている。さらに疾患を根本的に治療する原因療法が可能となる。ゲノム創薬は現在のところまだ研究段階であるが、それを実現するためには(1)ヒトゲノムを解読し構造および機能の全容を解明すること、(2)病態を決定するヒトDNA塩基配列の異常を解明すること、が必要である。今後は、ゲノムの中に含まれる遺伝子を見つけ出してその機能を解析し、さらに塩基配列の異常と疾患の関係を明らかにしていく必要があり、現在ポストゲノム計画として、世界的規模で研究が進行中である。将来、ゲノム創薬が貢献すると予想される疾患としては精神神経疾患、臓器不全、アレルギー疾患、糖尿病、関節炎、ぜんそく、がんなどがある。